負けのイメージ1

今、テニスをしている。
日曜の夕方。
試合形式は、ダブルス。
僕は、「アドバンテージサイド」(左サイド)を担当している。
この試合、プレイヤー4人の中で、自分が一番、「下手」だ。
皆、自分より若いというわけではない。
対戦相手の一人は、20才そこそこだが、もう一人は、10才も年配だ。
自分には、運動神経がないというべきか…。
週末だけのテニスだが、もう6年も続けているので、経験の差という言い訳は立たない…。
4ゲーム先取。1セットマッチ。
相手のサーブから、ゲームは始まる。
デュースサイド(右サイド)からのサーブ。
僕は、前衛で、まずパートナーが、後衛になり、リターン(レシーブ)をする。
相手のファーストサーブは、自陣サービスエリア、サイド側ぎりぎりに決まった。
コート外へ跳ねるボール。
サービスエース
まぐれのようなコース。
パートナーは、手出し出来なかった。
15―0
「ナイスサーブ。」
対戦相手の前衛が、サーバーに声を掛ける。
次は、自分がリターンを返す番。
エンドラインの少し後ろに立ち、ラケットのグリップを薄く握る。薄く握るとは、速い球に振り遅れない握り方。包丁を握る感じ。
僕の心境。
フォアハンドは、練習で出来たスイングを再現することだ。
自分は、体重が軽く、筋力もないので、スイングの際、ラケットに重心を移した後、ボールの勢いに負けないよう、今度は、重心を身体に戻すようにラケットを振り抜くこと。
自分だけのイメージだが、この体重移動の感じが出ないと、手だけで打つ弱々しいスイングになってしまう。
ボールに集中するというより、その再現性がポイントとなる気がする。
若い相手サーバーが、トスを上げ、サーブを打つ。
フォアサイド(右側)に、ボールが来た。
スイングをする。
実際は、ボールは速いので、考えながらスイングはできない。
インパクト。
ラケットにボールを当てることは出来たが、ジャストミート出来なかった。
かすれ当たりのボールが、なんとかネットを越える。
サーバーが前進し、ワンバウンドしたボールを、角度を付けて、自分の前に叩き返す。
こちらは、動くことも出来ない。
30―0
「スミマセン。」
自分は、パートナーに謝る。
謝りながら、何が悪かったのか、考える。
しかし、リターンについて、考え続けるのは、良くない。
次はまた、前衛になり、別の役割「ボレーヤー」なのだから。ストロークの反省は、今は必要ない。
前衛の位置に移動する。
ラケットのスロート(ラケット面のすぐ下の軸)に左手を添える。
ボレーをするには、まずは「ラケット面をしっかり作る」事だ。だが、それだけでは勝てない。対戦相手は二人とも、よくボールを拾うタイプだ。
今の自分のレベルで、この相手に勝つには、スピードボールを打つ事。そのためには、ラケット面で薄く叩く…。実は、これは、方法として正しいのか、自信がない。
今だにボレーでどうすれば、スピードを出せるのか良く分からない。
練習の感覚では、手首を固めて、腕全体で大きく振り下ろす感じか。
ストローク同様に、腕力がなくても、スピードを出す方法があるハズ。
「つなぎ」でなく、「決め」のボレーが打てないと厳しい。
対戦相手のサーバーが、トスを上げる。
思い切り、振り抜く。
フォールト。
ボールは、大きくサービスエリアを外した。
セカンドサービス。
セカンドサービスは、サービスエリアに、入れにくるため、ボールの速度も遅い。
予想通りの緩い球。
若いパートナーは、回転のかかった比較的速いボールで返球(リターン)する。
続いて、お互いデュースサイドでの、後衛同士の打ち合いに入る。
その時の僕は、相手後衛がサイドにストレートに打ってこないかに注意しながら、「ポーチ」の機会を伺う。「ポーチ」は、ストロークの間に割り込んでボレーをすることだ。
しかし僕は、自分からボレーに行こうとはしない。自らのミスで失点することを恐れるからだ。
しかし、ボールが自分のところへ飛んで来た。
対戦相手が返球のコースをミスッたのだ。
緩くフワッとした山なりのボール。
いわゆるチャンスボール。
叩き込めばいいのだが、僕は緩いボレーを打ってしまう。
当然、相手は拾う。が、返すだけのロブ(フライ)で、再びボールは、僕の元へ。
今度は、僕はスマッシュを打つ。
しかし、コースが甘く、対戦相手は、ワンバウンドしたボールをうまくロビング(山なりのボール)。
ボールは、前衛の僕の頭の上を抜ける。
僕とパートナーは、サイドチェンジ(左右の入れ替わり)をし、パートナーが、ボールを取りに行くが、パートナーがやっと追い付き、おかしな態勢で返球したボールは、ネットにかかった。
40―0
僕が決めるチャンスが2回もあったのに、つぶしてしまった。
パートナーに申し訳ない。
次に僕がリターンできないと、1ゲーム目を取られることになる。
「がんばるよ。」
僕はつぶやくように言う。しかし、どうがんばればいいのかとも思う。
リターンをするため、アドサイド(左側)のエンドラインに立ちながら、僕は、ストローク(スイング)のイメージをもう一度想像する。
スイングの際、ラケットに重心を移した後、ボールの勢いに負けないよう、重心を身体に戻すようにラケットを振り抜くこと。
相手のファーストサーブ。
ボールは、自分の左側に打ち込まれてきた。
僕は、バックハンドで返す。
バックハンドは、両手打ちのスタイルなので、ボールの勢いに負けることは、フォアハンドより少ない。
しかし、サーブが速かったため、打ち返したボールは、コート真中の、相手前衛の守備範囲に。
相手前衛は、返球のコースが甘いことを見越して、位置を移動し、速いボレーをガラ空きのセンターに打ち込む。
1ゲーム目を落とした。
2ゲーム目に移るため、コートチェンジ(コートの入れ替わり)をする。
若いパートナーのサーブ。デュースサイド(右サイド)からのサーブ。
パートナーは、20才になったかならないかの青年で、学生時代からの経験者。
思い切ったファーストサーブは、大きくフォールト。
セカンドサーブは、慎重に入れに行く。
相手のリターン。低い弾道のボールが返ってくる。
後衛同士のラリーが続いた後、相手後衛が、ミス。打ったボールが大きく、アウト。
15ー0
「ナイスです。」
僕は、パートナーに声を掛ける。
今度は、パートナーのアドサイド(左サイド)からのサーブ。
勢いのあるファーストサーブが、決まる。
「ナイスサーブ。」
声を掛け、サイドを変わる。
30ー0
またデュースサイド(右サイド)からのサーブ。このゲーム、ここまで、僕は何もしていない。
このまま1ゲーム取れればいいと思う。
ゲームカウント1ー1になると、精神的に楽になる。
パートナーのサーブ。
「フォールト。」
相手前衛から声が上がる。
惜しくも、ライン外側。「ジャスト(アウト)です。」
僕は、パートナーに声を掛ける。
パートナーのセカンドサーブ。今度は、うまく入る。
相手のリターン。
速いスイング。
しかしコントロールされず、前衛の僕のところに高い弾道で飛んでくる。
僕はスマッシュをする。
しかし、打ったボールは、コートを大きく外してしまう。
ボールの速さに間に合わず、ラケット面が上向きの時に、インパクトしたのだ。
「ドンマイっす。」
とパートナー。
「次、がんばります。」と僕。
30‐15
アドサイド(左サイド)からのパートナーのサーブ。
最初から入れに行く。
ここは、追いつかれたくないので、慎重になる。
前衛の僕は、相手後衛から、ストレートを抜かれないように注意する。
相手後衛は、年配だが、試合巧者だ。
リターンは、クロスに、勢いのある球が返ってきた。タイミングを合わせ、ボールの勢いを利用した、センター付近を通る低いボール。
僕は、ポーチ(ボレー)には出ない。
味方後衛が、またクロスに打ち返す。
コートに深く入るボール。
相手後衛は、それをやはりタイミングよく返す。返球は、同様の深いボールになる。
すると、相手後衛は、前進し、ポジションを前にとり、「並行陣」になる。
次は、ボレーで返す可能性が高い攻撃的な布陣になる。
僕たちは、元の陣形の「雁行陣」のままで、後衛は、クロスに返球する。
返球した球は、低めのボレーの難しいものだったが、相手は、うまく拾いクロス方向に短く返す。
前衛の僕が取りに行ける球ではなかった。味方後衛は、前に出て、ワンバウンドしたボールをなんとか返す。
待ち構えている相手は、そのボールをフォアボレーで、僕の届かないところへ押し込む。
30‐30
先のラリーの中で、ボレーをするとか、何か積極的に出来なかったか、考えてしまう。
デュースサイド(右サイド)からの味方のサーブ。
追いつかれたので、緊張が増す。
ファーストサーブが入る。
若い、相手のリターナーは、経験が浅いので、ボールをコントロールするところまでは行っていない。
フォアハンドで、リターン。
クロスに返らず、ストレートに、僕に向かって飛んできた。
低い、案外速い球。僕は低くラケットを構え、足を踏み出す。ボールをヒットした。が、ネットにボールをかけてしまう。
30‐40
逆転。
「スミマセン。」
僕は、味方後衛にというより、つぶやくように言う。
「ラッキー。」
相手は喜ぶ。
「次はとる。」
と僕はまた、つぶやく。でも、どうやって?とも同時に思う。
アドサイド(左サイド)からの味方のサーブ。
ここまで、足を引っ張っている。なんとかしなくては。
味方の、ファーストサービスは、フォールト。
セカンドサービスのリターンに備えるため、僕は、ポジションを少し下げる。
セカンドサーブが入る。
年配の相手後衛は、タイミングを合わせ、力むことなく、リターンをクロスに返す。
味方後衛もクロスに返す。慎重に返したボール。
相手後衛は、バックハンドでキチッと構え、ショートクロス(クロスに短く)に打ち込んで来た。
追いつく味方後衛。
僕は、味方後衛が、コート外寄りに出された分、センターに寄り、コートをカバーする。
味方後衛の返したボールは、山なりだが、深くクロスに飛んだ。
相手後衛は、少し後退し、大きく弾んだボールを身体を回り込ませて、フォアハンドで打った。
速めの球が逆クロスに飛ぶ。
味方後衛が、打ち返す。その球を相手前衛が、前に出て、ポーチ(ボレー)した。
球は、コートのセンター付近に落ちる。甘い球なので、僕がバックハンドで拾う。
フワッと浮くボール。
もう一度、相手前衛のところへ。ボールを叩く相手前衛。
今度もセンターへ落ちるが、届かない。
味方後衛が取りに行く。ボールが、デュースサイド(右サイド)向かっているので、僕は、アドサイド(左サイド)にコートチェンジ。
味方後衛は、ボールに追い付き、ストレートに返球。
相手後衛は、ボールを同じくストレートに返す。デュースサイドでのストロークになる。
僕は、ポーチに出ること(ボレーすること)と、相手後衛が、アドサイドに、逆クロスを放つことに注意して守る。
相手前衛が、ポーチ(ボレー)に出る。
ボールは、コート右サイドで弾む。意図してそこを狙ったのではない。
その球を味方後衛が拾う。返球。その時、相手後衛は既に、前進守備に。
味方後衛が、外に出され出来たオープンスペースに打ち込む。
2ゲーム目も取られる。