その1(1995年)

【登場人物】※1995年当時の登場人物
谷原優介(主人公のサラリーマン)
加藤ジョージ(ハーバードに通うエリート大学生)
伊刈万寿夫(主人公の上司)
鞍月(くらつき)絵里(まだ谷原に出会っていない中学生)
信野伸介(まだ谷原に出会っていない中学生)
滝沢コトミ(まだ谷原に出会っていない小学生)
 
 
 
 
 
【その1】
「1995年夏・不思議な後輩、アラワル」
 
【シーン1】
~(ナレーション)
「ここは、東京、丸の内にある、とある喫茶店「ぶらじる」。暑い夏の日、今日も、一人の男が、仕事をさぼっている…。」
アルバイト社員、近井ミキ、ドアを開け入ってくる。
「谷原さん、こんなところで、さぼってたら、また課長に怒られますよ。」
谷原、
「よくココ、分かったねぇ、近井ミキさん。たまには、いいの、いいの。近井さん、先月に入ったばっかなのに、頑張り過ぎだよ。正直、あの新米課長には、ついていけないよ。どれだけ働かせりゃ、気が済むんだ。俺は、「リゲイン」の「牛若丸三郎太」かっての。」
近井、
リゲイン?牛若丸??」
谷原、
「…ミキちゃんは、本当に冗談が通じないね。それより、俺になんか用事あったんじゃないの?」
近井、
「はい。先程、加藤ジョージさんと名乗られる方が、お見えになり、名刺に電話番号を書いていかれました。ここに、電話をすぐにくれと。」
谷原、名刺を見る。
「加藤ジョージ?知らないなあ。どうせ、ろくでもない用事だろうけど…。」
谷原、喫茶店に設置してある緑の公衆電話に行く。
谷原、
「テレホンカードを入れて…。」
テレホンカードを入れる。

(番号のプッシュ音)
(電話呼び出し音)

加藤、
「加藤ジョージと申します。谷原サンですか?いやあ、どう、この音質。まあまあでしょ。買ったんですよ、PHS、パーソナル・ハンディフォン・システム。7月にサービス開始したばっかの。」
谷原、
「はあ…。どちらさまか知りませんが、景気がまだバブル真っ直中のようで、うらやましい。それに引き替え、こちらは、夏なのに氷河期。週に一度の楽しみだった少年ジャンプの「ドラゴンボール」も終わっちゃっいましたし。」
加藤、
「バブル?何言ってるの、谷原サン。時代は、動いているのよ。NISSANも「かわらなきゃ」って言ってるよ。この1995年、「がんばろう神戸」!…」
ピピー、ピピー、(テレホンカードが公衆電話からはじき出される。)
谷原、
「テレホンカード、もう切れた!はえ~!」
 
曲:福山雅治「HELLO」
 
(ナレーション)
今は、1995年、平成17年。財テクや土地高騰に日本中が踊らされたバブル景気は、今や見る影もなくなり、我が主人公、谷原優介(23才)は、就職氷河期をギリギリで乗り切り、ココ、丸の内に会社を構える「カメノテ商事」に就職し、1年目の夏を迎えていた…。
 
【シーン2】
~オフィス(第3コンシューマー課の表示)
伊刈、
「このバカモ~ン!!!今まで、何やってたんだ~。」
谷原、
「すみません。伊刈課長。パソコンが動かなくなってしまって、それで…。」
伊刈、
「それで?」
谷原、
「それで…、パソコンを少し休ませようかと。」
伊刈、
「何を言っとるんだ、谷原優介。休んだのは、お前の方だろ。どうするんだ、先方に見せるプラン。先方は3時には来られるぞ。もう間に合わん。もう間に合わんぞ~。」
谷原、
「手書きにしましょう。どうせ、打ち合わせしたら、内容変わっちゃうんだし。」
伊刈、
「お前が言うな!」
谷原、
「だって、パソコンが動かなくなっちゃって…。」
近井、
「あの、資料なら、打って置きました。」
伊刈、
「ナヌ?それは、本当か?」
谷原、
「印刷もしてあるの?」
近井、
「はい。」
伊刈、谷原、
「助かった~。」
 
【シーン3】
~夜、居酒屋
伊刈、谷原、近井の3人。
谷原、
「せっかくのお礼が、こんなお店で、ゴメンね。何しろ給料日前で…。」
伊刈、
「私も謝る。課長に昇進とは名ばかりで、給料変わらず、娘も育ちざかりで、金欠状態。ウオオ~ン。貴乃花とフジテレビ女子アナ、河野景子さん結婚、ウオオ~ン。」

♪居酒屋に、岡本真夜の「Tomorow」が流れている。

近井、
「この曲、いいですね。私、小学校の頃、合唱したことあります。」
谷原、
「え、コレ、5月の新曲だよ。」
近井、
「そうでした。勘違い。勘違い。アハハ。」
伊刈、
「…アメリカでは、「ウインドウズ95」が発売されていて、今度、日本でも売られるそうだ。」
谷原、
「それを買うと、どうなるんです?」
伊刈、
「うーん、つまりだ…要は、仕事が、とてもはかどるらしいぞ。」
谷原、
「じゃあ、伊刈課長も、パソコンデビューですね。」
伊刈、
「まあな。近頃では、リストラが横行している。リストラは、企業の再構築の事だが、解雇の手段にもなっている。この先、パソコンの一つも出来なければ、即お払い箱だろう。我々、サラリーマンにとっては、厳しい時代だ。バブルの時買ったNISSAN「シーマ」も手放したし。い~い車だったのに。ウオオ~ン。」
谷原、
「(酔って)うぃ~、同情するなら、カネをくれ!」
伊刈、
「「家なき子」か、「2」見たか?あれはなあ…。」

居酒屋に、Hjangle with Tの「Wow War Tonight」がかかる。

伊刈、谷原、歌う!
笑う近井。
 
【シーン4】
~(ナレーション)
「朝の給湯室。どの時代でも、女子の会話は…」
女子A、
「聞いた?宣伝部の逸田さん、3週間の休みで海外旅行ですって。円高だからって。」
女子B、
「バブルが終わっても変わらないわね。それより見た?「愛していると言ってくれ」…豊川悦司、良い!」
女子C、
「ドリカムの主題歌「Love Love Love」もいいの~。」
女子A、
「だよね~」
女子B、
福山雅治、連ドラ初主演の「いつかまた逢える」は?」
女子C、
「(口真似)悔いのない恋愛をしろよ…」
女子A、B、C
「キャ~!」
 
【シーン5】
~オフィス(第3コンシューマー課の表示)
加藤ジョージ現れる。
「♪金のないやつは、俺んとこへ来い、俺もないけど、心配すんな~。ど~も、青島幸男都知事どす。」
谷原、
「…違うでしょう。」
伊刈、
「はじめまして。谷原サン。加藤ジョージと申します。」
 
【シーン6】
~応接室
谷原優介と加藤ジョージ
谷原、
「加藤さんは、ハーバード大学の学生さんですか。」
加藤、
「イヤイヤ、すごくないですよぉ。わたくしめがすごくなるのは、これからですから。ハッハッハノハ!アメリカ大統領は、ビル・クリキントン!いやクリントン!日本の総理は村山富市、トンちゃん。」
谷原、
「…何も言ってないし。で、ご要件は?」
加藤、
「それは…。」
 
【シーン7】
~オフィス(第3コンシューマー課の表示)
伊刈、
「ボランティアの支援?」
谷原、
「はあ…。その加藤さんが言うには、これからの時代、市民が主体となって、子育てや、老人介護、災害支援などをするようになると。」
伊刈、
「確かに、今年1月に起きた「阪神淡路大震災」を見れば、ボランティアの重要性は分かる。…が、なぜ我が社に?」
谷原、
「ええと…それは、なんとなくやってくれるかもっていう「カン」だそうです。」
伊刈、
「カンで、話を持って来られてもなあ…。」
近井、
「課長さん、谷原さん、やりましょうよ!その話。近い未来、必ず必要になります。市民が互いに助け合うことの支援活動。ステキじゃありませんか。」
伊刈、
「だがなあ、我が社に、担当してくれそうな課は…ないぞ。」
近井、真面目に、
「…数年後、法律が施行されて、「NPO」、特定非営利活動法人なんていう団体が認められ、市民が、社会的な支援をより行いやすい状況になります。」
谷原、
「ミ、ミキちゃん、なんでそんな事知ってるの?」
近井、
「えっと…そんな気がします。そして、さらに先になりますが、今度の震災のような事が起こる…ような気がします。と、いうか、「カン」ですが。と、とにかく、私、この話に賛成です。何でもしますから、やりませんか。」
伊刈、
「繰り返しになるが、我が社に担当してくれる課は、…。」
谷原、
「ウチの課しか、ありませんよね。」
伊刈、
「そうだ。出来るか、谷原?」
谷原、
「ミキちゃんが言った、「市民が互いに助け合うことの支援」って、僕もとてもステキだと思う。何ができるか分からないけど、やってみよう!」
伊刈、
「そうと決まれば、不肖、伊刈万寿夫36才、とことんやってやろうじゃないか!」
3人、
「エイ・エイ・オー!」

曲:大黒摩季「ららら」

谷原、(モノローグ)
「それから、1週間、僕たちは、頑張った。」
伊刈、
「ほれ!差し入れ!」
谷原、近井、
「ありがとうございますっ!」
伊刈、
「今日も、ドジャース野茂英雄投手、勝ったぞ!」
谷原、
「すごいなあ。ミキちゃん、野茂は、知ってるよね?」
近井、
「知ってますよ。トルネードッ!みんなに勇気、与えてくれますよね!」
伊刈、
「コレ食べて、もうひとがんばりだ!」
谷原、近井、
「ハイ!」
 
【シーン8】
~オフィス(第3コンシューマー課の表示)
伊刈、ドアを開け入ってくる。
伊刈、
「やったぞ!社長プレゼン、通った!」
谷原、近井、
「ヤッタ~!!」
手を取り合って喜ぶ。
伊刈、
「これから先、我が社も社会の一員として、企業の社会貢献活動を積極的に推進していく事が決まり、今回の提案に、ゴーサインが出た。二人ともよく頑張ったな。」
伊刈、続けて言う。
「…で、この提案については、これから新しく立ち上がる部署が引き受ける事に決まった。」
谷原、(モノローグ)
「…こうして、僕たちの1995年の夏は、終わった。」
 
【シーン9】
~オフィス(第3コンシューマー課の表示)
谷原、
「ふあ~。おはようございま~す。すごい風ですね。台風の影響かな。」
伊刈、
「何がおはようだ!遅刻だぞ!夏の終わりに、たそがれているのか。たるんどるぞ、谷原優介。」
谷原、
「あれ?ミキちゃんは?」
伊刈、
「残念だが、急に故郷に帰ることになった。」
谷原、
「故郷って?」
伊刈、
「東北だそうだ。確か、猪苗代湖の…。」
谷原、
「あれ、手紙がある。」
封筒を開ける。
~谷原さんへ
急に仕事をやめてしまうことになり、ごめんなさい。
谷原さんと伊刈課長と仕事できたこと、忘れません。
谷原さんたちと始めたこと、きっとヒトを助け、未来につながると思う。ありがとう。
近井未来~
伊刈、
「良い子だったなあ。」
谷原、
「不思議な子でした。ミキちゃんて、みらい(未来)って、書くんだなあ。「ちかいみらい」「きんみらい」(近未来)か…。ミキちゃん、俺もやれる事、頑張るよ。」
 
【シーン10】
~東京の町を歩く谷原優介。
「風は、やんだな。」
谷原、お母さんに連れられる女の子とすれ違う。

滝沢コトミ(12才)
「ここが、東京と?コトミ、ここは、いっちょん面白くなか。お母さん、早くディズニーランド行くばい!」
 
谷原、中学生女の子の集団とすれ違う。
鞍月(くらつき)絵里(14才)
「私、今日、誕生日なんだ~。」
周りの女の子、
「おめでとう!絵里!」
 
安部、中学校の男の子とお母さんにすれ違う。
信野伸介(15才)
「母ちゃん、「ドラゴンクエストⅥ 幻の大地」が12月に出るよ。あと、10月から、「新世紀エヴァンゲリオン」って、アニメ始まるんだって。あっ秋葉原は、コッチ、コッチ!」
 
曲:斉藤和義「歩いて帰ろう」
 
【終わり】